プレスリリース
メディア 2006/07/07
日食IT版連載 成長へのモデルチェンジ
「食の安全を担保する情報管理」
品質情報DBの業界標準は可能か?
標準化と差別化の境目を探る
品質保証と生産管理の分別が大切
生協や大手食品メーカーで品質規格書のデータベース(DB)化が進むなか、同データの受け渡し方法を業界で標準化すべきとの意見が増えている。得意先が指定する独自の登録ソフトや入力方法に個別対応せざるを得ない事態が相次いでいるためだ。データ提供側では人手を掛けてしのいでいるのが現実である。標準化を巡る議論の中心は、どこまでの項目を標準化の対象とするかだ。視点の違いにより、情報共有すべき項目と、すべきでない項目とが交錯している。品質保証に必要な項目なのか、メーカーに任せるべき生産管理上の項目なのか、分別する視点が大切だ。
1.品質情報DB化の背景
商品や原材料の仕様を記した品質規格書は、汎用的な表計算ソフトで作られていることが多い。このようなソフトはユーザー数が多いだけでなく、データの提供を求める側(一般に仕入元側)がフォーマットを自由に設計できるメリットがある。しかし、自由度の高さはデータを提供する側でも同様だ。入力された内容が不正確でも、データの登録や送信を問題なく行えてしまう。データ提供を受ける側では、情報内容に誤りがないか隈なく確認しなければならないのだ。
正確な情報を入手しても課題は残る。一括表示の作成など業務システムとデータ連携していないことも多く、データでもらった情報を転記しているのが一般的だ。アレルギー表示の記載漏れなど転記ミスをおかすヒューマンエラーも珍しくない。
表計算ソフトでは、複数のシートやファイルにわたって検索を行うことも容易でない。特定の原産地のものを使った原料を検索しようにも手間がかかる。詳細な品質情報を巡る問い合わせに、迅速に対応できなくなってきたのだ。
入力や転記のミスを防ぎ、迅速な検索を実現する仕組みとして、品質情報のDB化を進める食品企業が増えている。
2.DB間の連携は可能か
品質情報のDB化が進むなか、DB間の連携の問題が生じている。得意先が導入したDBシステム(DBソフト)が異なる場合、それぞれに対応した入力ソフトを導入しなければならないのだ。表計算ソフトさえあれば済むという状況ではなくなってきた。異なるDBシステム間でも、簡単にデータの受け渡しができる仕組みが求められている。ある食品メーカーの関係者は、理想論としながらも、図1のようなイメージが望ましいという。業界共通のデータセンター(DC)を設け、同DCの送受信データの形式にあえば、どのようなDBシステムを導入してもデータ連携できる仕組みだ。このような仕組みを模索する動きも、現実に出てきている。
DB連携の議論で最も重要なのが、どのような項目を標準化(情報共有)の対象とするかだ。データ提供を求める側は、差別化や不測事態への備えを理由に、あらゆるデータの提供を求めてくることも多い。一方、データの提供側は企業秘密を理由に出したくない情報があるのも現実だ。視点の違いにより、思惑が交錯しているのが実態である。受発注データのやり取りでさえ標準化できていない現状を考えると、多数の取引先同士でデータ連携することは容易ではない。しかし、糸が複雑に絡み合っていない今だからこそ、適切なインフラ整備を行える状況にあるとも言える。
3.品質保証か生産管理か
標準化を巡る議論のなかで、忘れてならない視点がある。食品メーカーの場合、商品のレシピ情報には二種類あることだ。商品レシピと製造レシピである。図2のように、前者が使用する原材料やその属性を定義しているのに対し、後者は製造する際の原材料の形態や工程、歩留、人時を定義している。同じレシピという名称ではあるが、管理の目的が違う。商品レシピが「このような原料を使って作ります」という品質保証情報である一方、製造レシピは「原料をこのように使います」という生産管理情報である。実は後者こそ、食品メーカーの腕の見せ所なのだ。与えられた品質要件を満たす最も効率的な製造方法を定義するものだからである。しかし、この現実を見誤るかのような事態が出てきている。製造レシピの情報まで提供を求める動きだ。小売業の一部での動きに過ぎないが、食品メーカーの腕の見せ所まで標準化されかねない事態だ。製造レシピこそメーカーとして差別化できる独自項目。品質保証上の標準化の議論とは一線を画されるべきものである。
(取材協力:ブロード・システム・ソリューションズ)